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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)51号 判決

東京都港区高輪四丁目二四番三六号

原告

王優

東京都港区高輪四丁目八番三三-八〇一

原告

大原徹也

神奈川県伊勢原市桜台二丁目一八番二四号

原告

王正貫

埼玉県朝霞市根岸台七丁目四番一四号

原告

大橋寿美

東京都武蔵野市吉祥寺北町一丁目一番一九-九〇一

原告

王公美

右原告ら訴訟代理人弁護士

緒方勝蔵

東京都港区芝五丁目八番一号

被告

芝税務署長

小畑収

右指定代理人

河村吉晃

小林康行

一杉直

右指定代理人

守屋和夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五四年二月二八日付けでした原告王優に対する相続税の更正及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、いずれも異議決定及び裁決により一部取消し後のもの)並びに同年七月九日付けでしたその余の原告らに対する相続税の再更正及び過少申告加算税の賦課決定は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和五一年二月一五日死亡した王輝(以下「被相続人」という。)の共同相続人(原告王優は配偶者、その余の原告らはいずれも子)であり、右相続(以下「本任相続」という。)に係る相続税についての課税及び不服申立ての経費は、別表一のとおりである。

2  しかしながら、請求の趣旨記載の原告王優に対する更正(ただし、異議決定及び裁決による一部取消し後のもの。以下「本件更正」という。)及びその余の原告らに対する再更正(以下「本件再更正」という。)並びに原告らに対する各過少申告加算税の賦課決定(ただし、原告王優に対する決定については異議決定及び裁決による一部取消し後のもの。以下同じ。)は、右相続に係る相続税の課税価格を過大に認定しているので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  抗弁

1  課税価格

原告らが被相続人より相続人として取得した相続財産、相続債務及び葬式費用並びに課税価格は別表二のとおりである。

2  預金

別表二の〈4〉の預金について、被相続人の預金の金融機関別、口座別の内訳は、別表三のとおりであり、使用名義が被相続人名義の預金(大原光輝名義のものを含む。すなわち、同表の〈1〉ないし〈8〉、〈20〉、〈24〉、〈39〉、〈40〉、〈44〉、〈45〉の預金)以外の預金(同表の〈9〉ないし〈19〉、〈21〉ないし〈23〉、〈25〉ないし〈38〉、〈41〉ないし〈43〉、〈46〉ないし〈51〉の協和信用組合本店に対する定期預金及び定期積金。これら預金については相続財産であることに争いがある。以下、これら預金を「本件預金」という。)の帰属についての主張は、次のとおりである。なお、定期預金(同表の〈8〉ないし〈37〉)の既経過利子の額は、定期預金の価格算出に当たり、これを加算すべきである。

(一) 王優ほか七名名義の一五口の定期預金元本合計七六七万九二四五円(同表の〈9〉ないし〈19〉、〈21〉ないし〈23〉及び〈25〉)について

右各定期預金は、被相続人が、昭和三六年から昭和四九年二月二日までの間に、協和信用組合本店(以下「協和信用」という。)において、被相続人の「王」と刻印のある指輪型の印鑑(以下「指輪印」という。)を使用して、王優ほか七名の名義で設定し、その後も相続開始日までの間、指輪印を用いて書替えの手続をする等して、これらの預金を管理、運用、支配してきたものである。右のとおり、設定時の状況やその後の書替え時の状況あるいはその使用印鑑等に照らしてみると、右各定期預金は、いずれも被相続人に帰属するものである。

(二) 池田順也ほか五名名義の六口の定期預金元本合計七〇〇〇万円(同表の〈26〉ないし〈31〉)について

右各定期預金は、被相続人が、昭和四七年一〇月一九日から同年一一月一〇日までの間、協和信用において各名義人の架空の名義を使用して設定し、相続開始日までこれらを管理、運用、支配し、その間の支払利子を受領していたものである。その後、右〈29〉の定期預金額面一〇〇〇万円のうちの五〇〇万円は、昭和五二年六月一四日に解約されて、その解約金の一部は、原告王優ゐ除くその余の原告らの劾和信用からの借入金の返済資金に充てられ、右〈31〉の定期預金額面一〇〇〇万円のうちの一五〇万円は、同年七月二一日に現金化されている。更に、右〈29〉の残額面五〇〇万円、右〈30〉の定期預金額面一五〇〇万円及び右〈31〉の残額面八五〇万円の残額合計二八五〇万円は、いずれも昭和五三年七月二九日に解約されて、有限会社協和企業(以下「協和企業」という。)に対する原告王優名義の貸付金の資金に充てられており、その後、協和企業は、土地売却益等により右王優名義の借入金の大部分を返済している。右のとおり、右各定期預金は、被相続人に帰属するものである。

(三) 松川事務所名義の六口の定期預金元本合計二一一万九六三九円(同表の〈32〉ないし〈37〉)について

右各定期預金は、被相続人が、昭和三九年一一月五日から昭和四一年五月二〇日までの間に、協和信用において指輪印を用い、松川事務所名義を使用して設定し、その後相続開始日まで指輪印を用いて書替手続等をしてこれらの預金を管理、運用、支配をしていたものである。したがつて、右各定期預金は、被相続人に帰属するものである。

(四) 王優ほか六名名義の一〇口の定期積金二七八三万円(同表の〈38〉、〈41〉ないし〈43〉、〈46〉ないし〈51〉)について

右各定期積金は、被相続人が、昭和四九年六月二八日から昭和五〇年一二月一七日までの間に、協和信用において各名義人の名義を使用して設定したものであり、以下に述べる各積金の設定経緯、積金の払込方法管理、運用状況並びに各名義人の資力等によれば、被相続人に帰属するものである。

(1) 同表の〈38〉(王優名義)の定期積金

右定期積金は、被相続人が、昭和四九年七月一八日満期の被相続人の定期積金二五〇〇万円のうちの一〇〇万円をもつて最初の払込みをして同月一七日付けで設定(満期金額二五一七万五〇〇〇円、毎月の払込金額一〇〇万円)したものであり、その後の払込みも、被相続人の普通預金口座から振替入金されたり(昭和四九年八月二一日及び昭和五〇年一月一八日)、同口座から払い出された現金をもつて払い込まれたり(昭和四九年一二月二〇日、昭和五〇年二月二〇日、同年七月二一日及び同年一二月二二日)、また、昭和五一年一月三〇日の払込みは、王正徹名義で協和信用から被相続人が借り入れた四〇〇万円のうちの一〇〇万円をもつて払い込まれたりしており、しかも、右定期積金は、昭和五〇年二月三日に被相続人によつて協和信用に対する借入金の担保として差し入れられている。

(2) 同表の〈41〉(王正徹名義)及び〈42〉(王公美名義)の定期積金

右各定期積金は、被相続人が、いずれも昭和四九年六月二八日、設定したものであり、満期金額各二五一万七五〇〇円、毎月の払込金額各一〇万円であつたところ、右払込金のうち、右〈41〉については、昭和五〇年七月三〇日のもの、右〈42〉については、同年五月一日、同年七月三〇日及び同年九月二七日のものが被相続人の普通預金口座から払い出された現金をもつて払い込まれている。また、右各定期積金は、被相続人名義の預金積金担保台帳に、被相続人の積立金である旨記載されている。なお(2)右各名義人の資力については、後記(8)(王正徹)及び(9)(王公美)のとおりである。

(3) 同表の〈43〉(王正徹名義)の定期積金

右定期積金は、被相続人が昭和四九年一二月一〇日、設定したものであり、満期金額二五二万二五〇〇円、毎月の払込金額一〇万円であつたところ、右払込金のうち、昭和五〇年一月一一日、同年二月二〇日、同月七月二一日、同年八月一六日、同年九月一一日、同年一〇月一六日及び同年一二月二二日のものが被相続人の普通預金口座から払い出された現金をもつて払い込まれている。また、右各定期積金は、被相続人名義の預金積金担保台帳に、被相続人の積立金である旨記載されている。なお、右名義人の資力については、後記(8)のとおりである。

(4) 同表の〈46〉(王公美名義)の定期積金

右定期積金は、被相続人が、昭和五〇年四月一七日、設定したものであり、満期金額三六万九五五五円、毎月の払込金額三万円であつた。また、右各定期積金は、被相続人名義の預金積金担保台帳に、被相続人の積立金である旨記載されている。なお、右名義人の資力については、後記(9)のとおりである。

(5) 同表の〈47〉(大橋寿美名義)の定期積金

右定期積金は、被相続人が、昭和五〇年五月一五日、設定したものであり、毎月の払込金額一〇万円であつた。また、右各定期積金は、被相続人名義の預金積金担保台帳に、被相続人の積立金である旨記載されている。なお、右名義人の資力については、後記(10)のとおりである。

(6) 同表の〈48〉(陳盛泉名義)及び〈49〉(陳盛田名義)の定期積金

右各定期積金は、被相続人が、いずれも昭和五〇年五月一五日設定し、毎月(各一〇万円)の払込みをして積立をしていたものである。

(7) 同表の〈50〉(王寿美名義)及び〈51〉(王公美名義)の定期積金

右各定期積金は、被相続人が、いずれも昭和五〇年一二月一七日、設定したものであり、満期金額各二五一万円、毎月の払込金額各一〇万円であつた。また、右各定期積金は、被相続人名義の預金積金担保台帳に、被相続人の積立金である旨記載されている。なお、右各名義人の資力については、後記(10)(王寿美)及び(9)(王公美)のとおりである。

(8) 原告大原徹也(王正徹)の資力

原告大原徹也は、昭和四八年三月に慶応大学を卒業したもので、在学中である昭和四六、四七年にはそれ程の収入があつたとは考えられない。また、同原告は、年間収入を、昭和四八年度は二〇三万円、昭和四九年度は二一一万円、昭和五〇年度は二一三万円であるとする確定申告書を提出しているところ、これを前提とすれば、同原告の収入は、月一八万円にも満たないものである。更に、同原告は、昭和四九年四月に北海道旭川市春光台五条三丁目七番一四号及び一五号の土地(当時の時価二〇二万円)、同年一〇月三一日に原告王公美と共有で静岡県加茂郡東伊豆町白田字元小屋一四六五番の七の土地(当時の時価九二四万円)を各取得している。したがつて同原告は、払込金額月二〇万円もの前記(2)及び(3)の定期積金を昭和四九年度において開始し、その後継続することは不可能であつた。

(9) 原告王公美の資力

原告王公美は、昭和四八年三月に東京薬科大学を卒業し、同年四月に聖心女子学院に勤務したものの、昭和四九年三月には退職し、その後同年一二月に三共ファーマシーに就職したが、昭和五一年二月までの右 勤務先からの収入は、いずれも月収は四万円余りから最高額で六万二五四〇円(ただし、いずれも夏期及び冬期の賞与、特別手当を含まないものであるが、右賞与等も六万一四二五円が一回の最高額である。)であつた。

したがつて、同原告は、昭和四九年度において月額一〇万円、昭和五〇年度においては月額二三万円もの払込みを必要とする前記(2)、(4)及び(7)の定期積金を開始し、継続することは不可能であつた。

(10) 原告大橋寿美(王寿美)の資力等

原告大橋寿美は、昭和四〇年三月に昭和薬科大学を卒業し、昭和四三年一月に大橋朋伊と結婚して以来、同人の扶養親族として収入は全くなかつた。

したがつて、同原告は、昭和四九年度において月額一〇万円、昭和五〇年度においては月額二〇万円もの前記(5)及び(7)の定期積金を開始し、継続することは不可能であつた。

なお、同原告は、結婚後、住所地を台湾、新潟市、松本市と移転しているが、前記定期積金設定時には松本市に住所があつたところ、松本市在住者である同原告がわざわざ東京都内の協和信用において毎月定期積金をするのは不自然であり、また、わざわざ結婚前の王寿美なる名義を使用する理由は考えられない。

2  貸付金

別表二の〈5〉の貸付金のうち、(18)の道南園芸株式会社(以下「道南園芸」という。)(19)の協和企業及び(20)の十合企業株式会社(以下「十合企業」という。)に対する貸付金(これら貸付金については相続財産であることに争いがある。以下、これら貸付金を「本件貸付金」という。)についての主張は、次のとおりである。

(一) 道南園芸に対する貸付金一億一五六七万七九二二円について

(1) 貸付金の残高

被相続人の道南園芸に対する貸付金の移動状況及び残高の推移は、別表四のとおりであり、相続開始日現在の残高は、一億一五六七万七九二二円である。

原告らは、同表に記載されている以外に被相続人が道南園芸から三〇〇〇万円の返済を受けた(道南園芸が昭和四九年二月二八日に協和組合中央経済合作社(以下、「中央合作」という。)から三〇〇〇万円の借入れをして同日被相続人に同額を仮払し、同年一一月三〇日に右仮払金三〇〇〇万円を被相続人の借入金返済に振り替えて返済した。)と主張しているが、右返済の事実はない。道南園芸の中央合作からの右借入金三〇〇〇万円は、その借入日に原告王優に送金されている。

(2) 相続税財産評価に関する基本通達(以下「基本通達」という。)二〇五号該当性

基本通達二〇五号は、貸付債権の回収が不可能又は著しく困難であるときは、その貸付債務を評価において相続財産に含めないものとしているが、ここにいう回収が不可能又は著しく困難とは、単に債務者の数年間の決算期末における貸借対照表の資産の額が負債の額を下回ることのみでは足りず、当該課税時期現在において、債務者が手形交換所において取引停止処分を受けるなど営業状況、資産状況等の諸般の状況に照らして貸付債権の回収の見込みのないことが客観的に確実となつていることを要するものである。これを本件についてみれば、道南園芸には、相続開始日当時、右のような事情はなかつたものである。かえつて、道南園芸は、その後も営業を継続するとともに、相続開始直前の昭和五〇年一一月三〇日期(昭和四九年一二月一日から昭和五〇年一一月三〇日までの事務年度を指す。以下これに準じ、例えば、昭和五〇年二月二八日期というときは、同日を最終日とする一年間の事業年度を指す。)の決算及び相続開始直後の昭和五一年一一月三〇日期の決算において、いずれも当期純利益を計上しているのであつて、右貸付金が、相続開始日現在において回収不能又は著しく困難であるとは到底認められない。

(二) 協和企業に対する貸付金八四五万六一二五円について

(1) 貸付金の帰属

協和企業は、昭和四一年七月二三日に設立され、相続開始日における商業登記簿上の代表者は、錦織圭子となつているが、その実質的な経営者は、被相続人であつたところ、同社が荒川税務署長に提出した昭和四九年二月二八日期の法人税確定申告書添付の勘定科目の明細書に、被相続人からの借入金一五三六万六四八九円を計上し、また、昭和五〇年二月二八日期の同申告書添付の勘定科目の明細書に、被相続人からの借入金五五三万四二〇四円を計上していたが、その後の昭和五一年二月二九日期(被相続人が死亡した直後の決算期)の同申告書添付の勘定科目の明細書には、被相続人からの借入金が消滅し、原告王優からの借入金八四五万六一二五円を計上している。これは、被相続人の死亡後、協和企業の経理処理をしていた和田税理士が、原告大原徹也からの申出によつて、協和企業の被相続人からの借入金八四五万六一二五円を原告王優からの借入金に書き換えたものである。したがつて、協和企業の右借入金は、被相続人からのものである。

(2) 基本通達二〇五号該当性

協和企業には、相続開始日現在、前記(一)(2)で主張したような事情は存在しなかつた。かえつて、協和企業は、多額の不動産(土地)をたな卸資産等として所有し、昭和五二年度以降においても、右たな卸資産の一部を販売して、多額の譲渡利益を得ており、昭和五五年二月二八日現在の貸借対照表上においても、債務超過の状態ではなくなつているのであるから、右貸付金が、相続開始日現在において回収不能又は著しく困難であるとは到底認められない。

(三) 十合企業に対する貸付金五八二七万九〇〇〇円について

(1) 貸付金の帰属及び残高

十合企業は、昭和四四年七月二五日に設立され、相続開始日における商業登記簿上の代表者は、原告王優であるが、実質的な経営者は、被相続人であつたところ、同社が被告に提出した昭和四九年三月三一日期及び昭和五〇年三月三一日期の法人税確定申告書添付の勘定科目の明細書には、被告主張の五八二七万九〇〇〇円をいずれも被相続人からの借入金として計上していた。したがつて、同社の右借入金は、被相続人からのものであり、相続開始日現在の貸付金残額は右五八二七万九〇〇〇円であつた。

(2) 基本通達二〇五号該当性

十合企業には、相続開始日現在、前記(一)(2)で主張したような事情は存在しなかつた。かえつて、十合企業は、相続開始日現在において多額の不動産(土地)をたな卸資産として所有しており、その営業を継続して、昭和五五年六月一九日には、新たに甲子不動産株式会社から東京都中央区京橋三丁目六番二に所在する宅地、建物を一億一三〇五万円で取得したり、昭和五六年一〇月には、その所有する札幌市西区手稲の土地を造成分譲する目的で、協和信用から四五〇〇万円の借入れを起こしたりなどのことをしているのであつて、右貸付金が相続開始日現在において回収不能又は著しく困難であるとは到底認められない。

4  原告らの取得した相続財産等の価格

原告らが取得した相続財産の価額は、別表五の被告主張額のとおりであり、また、相続債務及び葬式費用の価額は、別表六の〈10〉及び〈11〉の被告主張額のとおりである。

右のうち分割財産については、原告らの相続税申告書に記載された分割財産の合計額に、協和信用の被相続人名義の定期預金三口(別表三の〈8〉、〈20〉、〈24〉)の元本に対応する既経過利子合計額四八三三円及び協同組合日本華僑経済合作社に対する貸付金(ただし、申告書では預金としていた。)の元本に対応する既経過利子合計額八万一〇七一円を原告王優に対し加算した金額であり、未分割財産については、その余の本件相続財産を次に述べる原告らの法定相続分に応じて分割した金額である。

すなわち、被相続人は外国人であり、その相続関係は、被相続人の本国法によつて決定される(法例二五条)。被相続人の本国である中華民国において現に効力を有する相続法の規定によると、原告ら五名がその相続人になり(中華民国民法一一三八条)、各人の相続分は均等である(同法一一四四条)から、原告らの未分割財産の取得割合は、右各自均等の五分の一の相続分により計算されることになる。

5  相続税額

原告らの納付すべき税額は、別表六のとおり計算した結果、同表の〈23〉の被告主張額のとおりになり、右金額の範囲内である本件更正及び本件再更正は、いずれも適法である。

6  過少申告加算税額

原告らが本件相続に係る相続税につき納付すべき税額として申告した金額は、別表六の〈23〉の原告らの申告額欄に記載のとおりであり、それと納付すべき税額との差額(昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満切捨て)の一〇〇分の五に当たる額(同表の〈24〉の被告主張額、ただし同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)がそれぞれの過少申告加算税の額となり、右範囲内である原告らに対する各過少申告加算税の賦課決定は、いずれも適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告らの主張

1  抗弁1について

(一) 相続財産(別表二の〈1〉ないし〈8〉)について

同表の〈1〉(土地)、〈2〉(家屋)、〈3〉(有価証券)、〈6〉(未収入金)、〈7〉(立替金)、〈8〉(電話加入権)については、いずれも認める。

同表の〈4〉(預金)のうち、(12)、(13)、(14)については認め、(15)(協和信用関係)については、被相続人名義(大原光輝名義を含む。)の分を認め、その余の分(本件預金)を否認し、(16)については、被相続人名義の定期預金三口の元本に対応する既経過利子合計額四八三三円を認め、その余を否認する。

同表の〈5〉(貸付金)のうち、(17)については認め、(18)ないし(20)(本件貸付金)についてはすべて否認する。

(二) 相続債務及び葬式費用(同表の〈10〉ないし〈14〉)については、いずれも認める。

(三) 課税価格(同表の〈16〉)について争う。

2  抗弁2について

(一) 同2の冒頭事実のうち、被相続人名義の預金(大原光輝名義のものを含む。すなわち、別表三の〈1〉ないし〈8〉、〈20〉、〈24〉、〈39〉、〈40〉、〈44〉及び〈45〉の預金)については右1(一)のとおり認め、その余の名義の預金(本件預金)については否認する。本件預金が相続開始日に存在し、その名義、元本金額が被告主張のとおりであることは認めるが、本件預金は、以下(二)ないし(五)で反論するとおり、それぞれの各名義人に帰属する預金であり、被相続人に帰属するものではない。なお、被相続人に帰属する定期預金(同表の〈8〉、〈20〉、〈24〉)については、その既経過利子の額(合計四八三三円)がその定期預金の価格算出に当たり加算されるべきことは認める。

(二) 王優ほか七名名義の一五口の定期預金について

(1) 右各定期預金について、被相続人が被告主張の時に協和信用において被相続人の指輪印を使用して各名義人名義で設定したものであること、また、被相続人が指輪印を用いて書替手続をしていたこと(ただし、別表三の〈14〉及び〈15〉の預金についての書替手続については不知。)は認める。

(2) 別表三の〈9〉ないし〈13〉、〈16〉ないし〈19〉、〈22〉及び〈23〉の預金は、次表のとおりそれらが当初に設定された時(ただし、右〈22〉の預金は、昭和三七年三月二三日)に、各名義人(被相続人の妻及び子である原告ら並びに被相続人の妻の母である張黄)が被相続人から贈与を受けたもので、右各名義人に帰属するものである。

〈省略〉

(3) 同表の〈14〉及び〈15〉の預金は、被相続人が陳淑美及び陳盛田から手持金の運用を依頼され、同金員を定期預金にしていたもので、右各名義人に帰属するものである。

(4) 同表の〈21〉及び〈25〉の預金は、原告王優及び原告王公美が自己の手持金を定期預金としたものであり、その手続は被相続人に依頼したが、右各名義人に帰属するものである。

(三) 池田順也ほか五名名義の六口定期預金について

(1) 同表の〈26〉ないし〈28〉の預金は、十合企業の資金を各架空名義で定期預金にしたものであつて、十合企業に帰属するものである。すなわち、十合企業は、昭和四七年一〇月三〇日、同株所有の札幌市西区手稲宮の沢三五〇-四の土地に極度額四〇〇〇万円の根抵当権を設定して、協和信用から四〇〇〇万円を借り入れ、その内五〇〇万円を協和信用に十合企業名義の定期預金として預け、残金三五〇〇万円を、同年一一月八日に右〈26〉の、同月九日に右〈27〉の、同月一〇日に右〈28〉の各架空名義を使用して定期預金としたものである。

(2) 同表の〈29〉ないし〈31〉の預金は、協和企業の資金を各架空名義で定期預金にしているものであつて、協和企業に帰属するものである。すなわち、協和企業は、昭和四七年一〇月一七日、同社所有の北海道岩見沢市大和四条四丁目一番地の土地に極度額四〇〇〇万円の根抵当権を設定して、協和信用から四〇〇〇万円を借り入れ、その内五〇〇万円を協和信用に協和企業名義の定期預金として預け、残金三五〇〇万円を、同年一〇月一九日に右〈29〉の、同月二〇日に右〈30〉の、同月二一日に右〈31〉の各架空名義を使用して定期預金としたものである。

(四) 松川事務所名義の六口の定期預金について

右各定期預金は、原告王優が、麻雀荘銀座クラブで稼働した収入をもつて設定したもので、原告王優に帰属するものである。

(五) 王優ほか六名名義の一〇口の定期積金について

(1) 同表の〈33〉(王優名義)の定期積金

被相続人が右定期積金を設定したこと、昭和五一年一月三〇日に被相続人が王正徹名義で借り入れた四〇〇万円のうちの一〇〇万円が右定期積金に払い込まれたこと、右定期積金が被相続人によつて協和信用に対する借入金の担保として差し入れられたことは認め、その余の事実は不知。

右定期積金は、被相続人が、原告王優からの借金の返済方法として毎月一〇〇万円宛返済することを約したことにより、積み立てたものであつて、原告王優に帰属するものである。なお、右定期積金を被相続人が担保に差し入れることについて、原告王優はこれを承諾していた。

(2) 同表の〈41〉(王正徹名義)及び〈42〉(王公美名義)の定期積金

被相続人が被告主張の右各定期積金を設定したこと、被告主張の払込金は被相続人が払い込んだことは認め、その余の事実は不知。

右各原告は、被相続人に右定期積金の設定を依頼し、被相続人が払い込んだ金額は、それぞれ被相続人に返済している。なお、右定期積金を被相続人が担保に差し入れることについて、右各原告はこれを承諾していた。

(3) 同表の〈43〉(王正徹名義)の定期積金

被告主張の右定期積金が設定されたこと及び被告主張の払込金は被相続人が払い込んだことは認め、その余の事実は否認する。

右定期積金は、原告大原徹也が設定したものであり、被相続人が払い込んだ金額は、被相続人に返済している。なお、右定期積金を被相続人が担保に差し入れることについて、同原告はこれを承諾していた。

(4) 同表の〈46〉(王公美名義)の定期積金

被相続人が被告主張の右定期積金を設定したことは認め、その余の事実は不知。

原告王公美は、被相続人に右定期積金の設定を依頼したものであり、これを被相続人が担保に差し入れることを承諾していた。

(5) 同表の〈47〉(大橋寿美名義)の定期積金

被告主張の右定期積金が設定されたことは認め、その余の事実は不知。

右定期積金は、同原告が設定したものであり、同原告は、これを被相続人が担保に差し入れることを承諾していた。

(6) 同表の〈48〉(陳盛泉名義)及び〈49〉(陳盛田名義)の定期積金

被告主張事実は認める。

右各定期積金は、各名義人が日本に来た際、日本国内で有効に利殖するために、被相続人にその旨を依頼し預けた現金が毎月積み立てられたものであつて、各名義人に帰属するものである。

(7) 同表の〈50〉(王寿美名義)及び〈51〉(王公美名義)の定期積金

被告主張の右各定期積金が設定されたことは認め、その余の事実は不知。

右各定期積金は、原告大橋寿美及び同王公美が設定し、積み立てたもので、右各原告は、これらを被相続人が担保に差し入れることを承諾していた。

(8) 原告大原徹也の資力

原告大原徹也が昭和四八年三月に慶応大学を卒業したこと、被告主張の各確定申告をしていること、被告主張の各土地を取得したことは認め、主張は争う。ただし、右旭川の土地は、原告王優から贈与されたものであるが、飛地部分で評価額は低額であつたため、贈与税の申告をしなかつたものであり、また、右伊豆の土地は、兄弟姉妹四名が均等負担で取得したものであるが、名義は被告主張のように二名となつているものである。

同原告は、会社役員報酬として、十合企業から昭和四六年度二一万円、同四七年度八四万円、昭和四八年度には十合企業と有限会社ミカド企業(貸ビル業)から合計一八〇万円、昭和四九年度以降は、道南園芸と右ミカド企業から年間合計約二〇〇万円の収入があつた。

(9) 原告王公美の資力

被告主張事実は認め、主張は争う。

同原告は、被告主張事実以外に、昭和四八年四月から同五〇年三月まで毎月手取り六万円を十合企業から受け取つている。

(10) 原告大原寿美の資力等

原告大橋寿美が、昭和四〇年三月に昭和薬科大学を卒業し、昭和四三年一月に大橋朋伊と結婚し、住所地を被告主張のとおり移転していることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

同原告は、昭和四一年一月から同四三年一月まで被相続人経営の前記麻雀荘でアルバイトをし毎月五万円を貰つていた。また、結婚の際、持参金五〇〇万円を持つていつた。

3  抗弁3について

(一) 道南園芸について

(1) 被相続人の道南園芸に対する貸付金の移動状況及び貸付金の残高の推移が、次の(2)で主張すること以外は、別表四のとおりであることは認める。

(2) 道南園芸は、昭和四九年二月二八日に中央合作から三〇〇〇万円を借り入れ、同日、被相続人に仮払をしていたところ、同年一一月三〇日に右仮払金を被相続人の借入金返済として振り替えた。したがつて、道南園芸は、右三〇〇〇万円を被相続人に返済しているから、被相続人の道南園芸に対する貸付金残高は被告主張額より三〇〇〇万円少ない八五六七万七九二二円である。

(3) 道南園芸は、昭和四九年度の決算期から債務超過が続き、昭和五五年一一月三〇日期においては、四七〇〇万円余の債務超過となつているなどの状況にあり、したがつて、被相続人の道南園芸に対する貸付金は、その回収が不能又は著しく困難というべきであり、基本通達二〇五号に該当する。

(二) 協和企業について

(1) 被相続人が、相続開始日において、協和企業に対して貸付金を有していたことは否認する。被告の主張する貸付金は、もともと原告王優に帰属するものである。

(2) 仮に、右貸付金が被相続人に帰属するものであつても、協和企業は、昭和四九年二月二八日期から債務超過が続き、休業直前の昭和五一年二月二九日期において、一七九〇万円余の債務超過となつているなどの状況にあり、したがつて、右貸付金は、その回収が不能又は著しく困難というべきであり、基本通達二〇五号に該当する。

(三) 十合企業について

(1) 被相続人が、相続開始日において、十合企業に対して貸付金を有していたことは否認する。被相続人及び原告王優の十合企業に対する貸付状況は、別表七のとおり推移しており、相続開始日現在、原告王優が五六三三万五八九二円の貸付金を同社に有しており、被相続人は〇円である。これは、昭和五〇年三月三一日期の決算において、十合企業に対する貸付金の貸主が問題となり、その後被相続人と原告王優が協議の結果、右のように貸付状況が推移したものである。

(2) 仮に、右貸付金が被相続人に帰属するものであつても、十合企業は、昭和四九年三月三一日期から債務超過が続き、昭和五五年三月三一日期においては、六四九〇万円余の債務超過となつているなどの状況にあり、したがつて、右貸付金は、その回収が不能又は著しく困難というべきであり、基本通達二〇五号に該当する。

4  抗弁4について

(一) 原告らが取得した相続財産の価格

別表五の〈1〉ないし〈19〉については認める。同表の〈20〉についてのうち、別表三の〈8〉、〈20〉及び〈24〉の預金(元本一一二万八九八〇円)については認め、その余の定期預金については否認する。別表五の〈21〉についてのうち、別表三の〈39〉、〈40〉、〈44〉及び〈45〉の積金(一二〇〇万円)については認め、その余の定期積金については否認する。別表五の〈22〉についてのうち、同表の〈20〉のうちで認めた預金の元本に対応する既経過利子(四八三三円)を原告王優が取得したことは認め、その余の定期預金の元本に対応する既経過利子は否認する。同表の〈25〉については認める。同表の〈26〉ないし〈28〉(本件貸付金)については否認する。同表の〈30〉ないし〈36〉については認める。

(二) 原告らが取得した相続債務の額及び葬式費用の額(別表六の〈10〉及び〈11〉)については認める。

(三) 被相続人の本国が中華民国であり、その本国法の規定によると、原告らがその相続人であつて、その相続分が各自均等(五分の一)であることは認める

5  抗弁5は争う。

6  抗弁6のうち、原告らが、本件相続に係る相続税につき納付すべき税額として申告した金額が、別表六の〈23〉の原告らの申告欄記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件の課税の経緯等)、相続財産とその価格(別表二の〈1〉ないし〈8〉)のうち、本件預金(その既経過利子を含む。以下同じ。同表の〈4〉の(15)及び(16)の一部)及び本件貸付金(同表の〈5〉の(18)ないし(20))を除くその余のもの並びに相続債務及び葬式費用とその価格(同表の〈10〉ないし〈14〉)は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、以下二及び三において、本件預金及び本件貸付金に関し判断する。なお、本件預金については、それが相続開始日に存在し、その名義、元本金額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件預金

1  王優ほか七名名義の一五口定期預金(別表三の〈9〉ないし〈19〉、〈21〉ないし〈23〉及び〈25〉)について

(一)  右各定期預金は、いずれも被相続人が被告主張の時にその指輪印を用いて設定したものであること及びその後の書替手続(ただし、同表の〈14〉及び〈15〉の預金の書替手続を除く)も被相続人がその指輪印を使用して行つていたことは、当事者間が争いがなく、また、成立に争いのない乙第八号証及び弁論の全趣旨によると、右〈14〉及び〈15〉の定期預金の書替手続もまた被相続人が指輪印を使用して行つていたものと認められる(原告大原徹也の本人尋問の結果も、右認定を左右するに足りない。)。

一般に、定期預金の設定が、設定者自身により自己の印鑑を使用してされた場合には、当該定期預金の名義が設定者の名義でないにしても、一応設定者自身が当該定期預金を管理、支配しているものと推認すべきであり、したがつて、右のとおり、その設定のみならず、その後の書替手続をも、被相続人が自己の印である指輪印を用いてした右各定期預金については、それを被相続人が管理、支配していたものであつたことを充分に推認することができる。

(二)  原告らは、同表の〈9〉ないし〈13〉、〈16〉ないし〈19〉、〈22〉及び〈23〉の定期預金については、各名義人が被相続人から各定期預金設定時ないしその後に贈与を受けたものであると主張する。そして、原告王優及び同大原徹也の各本人尋問の結果中には、右主張に副うかのような部分もないではない。しかし、右各供述は、必ずしも具体性のある明確なものづはないうえ、右(一)に述べた、右各定期預金の名義人がその預金の贈与を受けたとする後においても、その書替手続は依然として被相続人が指輪印を用いて行つている事実に照らすと、右各供述は容易に採り難く、他に被相続人から右各名義人に右各定期預金の贈与があつたことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  原告らは、同表の〈14〉及び〈15〉の定期預金につき、その原資は陳淑美及び陳盛田の手持金であるとの趣旨の主帳をするが、前記各本人尋問の結果によつてもこれを確認するに充分ではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  原告らは、同表の〈21〉及び〈25〉の定期預金につき、その原資は原告王優及び原告王公美の手持金であるとの趣旨の主張をするが、前記各本人尋問の結果によつてもこれを確認するに充分ではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(五)  そして、他に前記(一)の推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(六)  そうすると、1冒頭掲記の各定期預金は、被相続人が管理、支配していたものであり、それゆえ、被相続人に帰属していたものと解することができる。

2  池田順也ほか五名名義の六口の定期預金(同表の〈26〉ないし〈31〉)について

(一)  原本の存在及び成立の争いのない乙第一ないし第六号証、成立の争いのない乙第七、第八号証、証人林広志の証言、原告王優及び同大原徹也の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、右各定期預金のうち、池田順也名義(同表の〈26〉)が昭和四七年一一月八日、杉山祥三名義(同表の〈27〉)が同月九日、沢田幸貴名義(同表の〈28〉)が同月一〇日、池田啓一名義(同表の〈29〉)が同年一〇月一九日、市瀬和幸名義(同表の〈30〉)が同月二〇日、月岡武男名義(同表〈31〉)が同月二一日にそれぞれ当初設定され、その後三月ごとに書替手続がされていたものであるところ、右各定期預金は、被相続人がこれらを設定し、その書替手続をし、その間の利息を受領していたものであること、そして、右各定期預金の名義人の届出住所地には右各名義人が実在していないこと、右各定期預金は、いずれも最終的に昭和五三年七月二九日に原告王優と原告大原徹也によつて中途解約されていること(ただし、それ以前に、右〈29〉及び〈31〉の預金がそれぞれいつたん解約されて元本が減額していることは後記のとおり。)が認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によれば、右各定期預金は、被相続人が管理、支配していたものであつたことを推認することができる。

(二)  原告らは、右〈26〉ないし〈28〉の定期預金は十合企業の、右〈29〉ないし〈31〉の定期預金は協和企業の各資金によるものであり、右各定期預金は十合企業又は協和企業に帰属する旨主張する。

ところで、まず、成立に争いのない甲第二三、第二四、第三三号証、乙第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第九、第一〇号証によれば、十合企業の昭和四九年三月三一日期、昭和五〇年三月三一日期及び昭和五一年三月三一日期の決算書又は協和企業の昭和四九年二月二八日期、昭和五〇年二月二八日期及び昭和五一年二月二九日期の決算書には、右各定期預金の存在が計上されていないことが認められる。この点につき原告大原徹也は、右各定期預金は、十合企業又は協和企業の裏金を預金したものであるから、正規の決算書に計上されていない(簿外預金である。)旨の供述をするが、十合企業及び協和企業において簿外預金をしなければならない理由が不明確かつあいまいであるから、右供述は容易に採用できない。

そこで更に、原告らが主張する十合企業及び協和企業の協和信用からの借入について考えてみるに、まず、成立に争いのない乙第五三号証及び弁論の全趣旨によれば、十合企業は、右〈26〉ないし〈28〉の定期預金の設定の一週間程前の昭和四七年一〇月三〇日に協和信用から四〇〇〇万円を借り入れたことが認められるが、一方、成立に争いのない乙第六三ないし第六六号証によれば、同社は、同年一二月二〇日に北海道川上郡弟子屈町字屈斜路三七〇番外三筆の土地を五〇〇〇万円で取得していることが認められるので、右借入金が直ちに右〈26〉ないし〈28〉の定期預金の原資であると認めることはできない。次に、成立に争いのない乙第四四号証及び弁論の全趣旨によれば、協和企業は、右〈29〉ないし〈31〉の定期預金の設定の直前の昭和四七年一〇月一七日に協和信用から四〇〇〇万円を借り入れたことが認められるが、一方、成立に争いのない乙第一二ないし第一四号証、官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分は証人林広志の証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証並びに弁論の全趣旨によれば、同社は、同月二三日に東京都荒川区荒川五丁目四番八外一筆の土地及び同所上の建物を三六二〇万円で取得していることが認められるので(甲第三〇ないし第三三号証も右認定を覆すに足りない。)、右借入金が直ちに右〈29〉ないし〈31〉の定期預金の原資であると認めることはできない(そもそも、原告らの主張は、営利会社である十合企業及び協和企業が金融機関である協和信用から借り入れた各四〇〇〇万円の資金を全額その金融機関に定期預金にし、しかもそのうち各三五〇〇万円については架空名義にしたというのであるが、この主張は、まず、営利会社が金融機関から借り入れた資金をその一部であればともかくその全額をその金融機関に定期預金をしたとする点において、次に、金融機関からの借入金を資金とする預金につき、それを架空名義の預金(しかも、右認定によると、簿外預金である。)としたとする点において、かなり不自然で納得し難いものであるが、それを納得させるに足る特段の事情について主張も、立証もない。)。そして、他に原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、右〈29〉ないし〈31〉の定期預金に関しては、次のような点を指摘することができる。すなわち、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証、第一七、第一八号証の各一ないし四、第一九号証、証人林広志の証言によれば、池田啓一名義(右〈29〉)の定期預金額面一〇〇〇万円は、昭和五二年六月一四日にいつたん中途解約され、そのうちの五〇〇万円は、再び同じ名義で定期預金とされたが、その余の金員のうち二三〇万円余が原告王優を除くその余の原告らの協和信用に対する借入金の返済に充当されていることが認められる。また、前掲乙第四ないし第六号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二〇、第二一号証、第五七ないし第五九号証、原告大原徹也本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、同表の〈29〉ないし〈31〉の定期預金(ただし、右〈29〉については、前記残額五〇〇万円の定期預金、また右〈31〉については、昭和五二年七月二一日に満期解約されて一五〇万円が引き出され、残額八五〇万円で再び同じ名義でされた定期預金)が昭和五三年七月二九日に解約されて、その合計二八五〇万円が協和企業の協和信用からの借入金を返済する資金とされたこと、そして、協和企業の決算書では、協和信用から借入金が減少したかわりに、原告王優からの借入金がそれにほぼ見合う二九四七万四五四八円増加していること、しかし、原告王優は、前記解約金とは別に右増加分について貸付金を協和企業に対して交付しているわけではないこと、その後協和企業から原告王優に対して右増加分を上回る金員が支払われたことが認められる。右各事実によると、右〈29〉ないし〈31〉の定期預金は、協和企業に帰属するものではなく、もともとは被相続人に帰属していて、相続によりその相続人である原告らに帰属するに至つたものであることが窺い得るのである。

以上要するに、前示原告らの主張は採用することができない。

(三)  そして、既に前記(一)の推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(四)  そうすると、2冒頭掲記の各定期預金は、被相続人に帰属していたものと解することができる。

3  松川事務所名義の六口の定期預金(同表の〈32〉ないし〈37〉)について

(一)  原本の存在及び成立に争いのない乙第二二、第一〇七号証によれば、松川事務所名義の定期預金の設定に用いられた印鑑の印影は、右各書証に顕出された印影であると認められ、一方、前記1のとおり、王優ほか七名名義の定期預金の設定が、被相続人の指輪印を用いてされたことは、当事者間に争いがなく、前掲乙第八号証(別添六二ないし七九。ただし、六六、六九及び七一を除く。)によれば、右王優ほか七名名義の各定期預金の設定に用いられた指輪印の印影は、右乙第八号証の別添書類の印鑑欄に顕出されたものであると認められるところ、右印影と前記乙第二二、第一〇七号証に顕出された印影とが同一であると認められるので、松川事務所名義の定期預金は、被相続人の指輪印を用いて設定されたものであると認められる。

(二)  ところで、成立に争いのない乙第二三号証及び弁論の全趣旨によれば、松川事務所とは、松川喜久の財産を管理している事務所であること、松川喜久は、昭和三三年ころから被相続人に対し大江重満名義で、東京都中央区銀座八丁目一〇番地所在の建物を賃貸していたこと、ところが、昭和三九年ころ松川の側から被相続人に対し同建物から立ち退くよう要求され、その後立退料について交渉が開始されたが、立退き要求後被相続人は、賃料を支払つていなかつたこと、その間、被相続人が松川事務所の職員である大井サダヨに対し賃料はいつでも支払えるように「松川事務所」の名前で預金していると発言したことがあつたこと、右立退きの交渉は、昭和四八年九月二八日に決着し、立退料の一部と未払家賃とを相殺するとの合意がされたことの各事実が認められ、右事実及び右(一)の事実によれば、松川事務所名義の定期預金は、被相続人が、右建物の不払賃料の支払準備として設定し、これを管理、支配していたものと推認することができる。

(三)  原告らは、右定期預金は、原告王優が、右建物で麻雀荘銀座クラブをしていた際、得た収入を預金したものであると主張し、原告王優はこれに副う供述をするが、右供述は、前記認定の事実に照らし容易に採り難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  そして、他に前記(二)の推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(五)  そうすると、3冒頭掲記の各定期預金は、被相続人に帰属していたものと解することができる。

4  王優ほか六名名義の一〇口の定期積金について

(一)  王優名義の定期積金(同表の〈38〉)

(1) 前掲乙第八号証及び弁論の全趣旨によれば、右定期積金は、当初被相続人が昭和四九年七月一七日付けで、被相続人の昭和四九年七月一八日満期の定期積金二五〇〇万円の払戻しを受けた内金一〇〇万円でもつて設定したものであること(同号証別添一ないし三参照、以下(1)において「別添」を省略し、その番号のみを括孤内に摘示する。ただし、被相続人が右〈38〉の定期積金を設定したことは、当事者間に争いがない。)、右定期積金の毎月の払込金は、昭和四九年八月二一日(四、五)及び昭和五〇年一月一八日(一一、一二)には被相続人の普通預金口座から振替入金され、また、昭和四九年一二月二〇日(九、一〇)、昭和五〇年二月二〇日(一三、一四)、同年七月二一日(一九、二〇)、同年八月二二日(二一、二二)、同年一〇月二〇日(二四、二五)及び同年一二月二二日(二八、二九)には被相続人の普通預金口座から払い出された現金をもつて払い込まれたことが認められ、更に、昭和五一年一月三〇日には王正徹名義で被相続人が協和信用から借り入れた四〇〇万円のうちの一〇〇万円をもつて払い込まれていることは当事者間に争いがない。また、右定期積金が昭和五〇年二月三日に被相続人によつて協和信用に対する借入金の担保として差し入れられていることも、当事者間に争いがない。

右各事実によれば、右定期積金は、被相続人が管理、支配していたものであると推認することができる。

(2) 原告らは、右定期積金は、被相続人が原告王優からの借金の返済方法として毎月一〇〇万円宛を原告王優に返済することを約したことにより積み立てたものであると主張し、原告王優はこれに副うかのごとき供述をしているが、右返済に係る原告王優の被相続人に対する貸付金の金額、貸付時期については何らの立証もなく、したがつて、右原告王優の供述は直ちに採用し難く、他にこれを認めるに足りる立証はない。

(3) そして、他に前記(1)の推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(4) そうすると、右定期積金は、被相続人に帰属していたものと解することができる。

(二)  陳盛泉、陳盛田名義の定期積金(同表〈48〉及び〈49〉)

(1) 被相続人が右各名義人の定期積金を設定し、毎月の積立をしていたことは、当事者間に争いがなく、右事実によれば、右各定期積金は、被相続人が管理、支配していたものと推認することができる。

(2) 原告らは、右各定期積金は、被相続人が右各名義人から有効に利殖をするように依頼を受けて預かつた金員をもつて積み立てたものであると主張し、原告大原徹也はこれに副うかのごとき供述をしている。しかし、右各名義人が被相続人に対して預けた金員の金額、預けた時期について具体的には何らの立証もなく、右原告大原徹也の供述は容易に採用できない。また、成立に争いのない甲第四四号証によれば、昭和五六年四月三〇日に富士銀行で陳盛田名義の普通預金口座が開設され、以来昭和五九年八月二五日まで入出金が繰り返しされていることが認められるが、右書証によれば、右普通預金の開設時期が被相続人の死亡から五年を経過した後であると認められることその中の入出金の入出の原因について具体的には何らの立証もないことに照すと、右普通預金と右各定期積金との関係が不明というほかはなく、右普通預金口座の存在が前記(1)の推認を覆すに足りるものとはいえない。更に、成立に争いのない甲第四〇ないし四三号証によれば、チエン名義でアメリカのレツテイ・ピンゴ・チエン宛に昭和五六年八月一八日に二二九万六〇〇〇円、同年一一月一三日に四五六万六〇〇〇円、昭和五七年六月二三日に五一三万五〇〇〇円が各送金されていることが認められるが、右送金の金額、時期、受取人の名義等に照らすと、右送金と右各定期積金との関係が不明であるというほかはなく、右送金の事実も前記推認を覆すに足りるものとはいえない。

そして、他に、右原告ら主張事実を認めるに足りる証拠もなければ、前記推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(3) そうすると、右各定期積金は、被相続人に帰属していたものと解することができる。

(三)  王正徹(同表の〈41〉及び〈43〉)、王公美(同表の〈42〉、〈46〉及び〈51〉)、大橋寿美(王寿美)(同表〈47〉及び〈50〉)名義の定期積金

(1) 王正徹名義の二口の定期積金が設定されたのが、昭和四九年六月二八日(毎月の払込金額一〇万円)及び同年一二月一〇日(同一〇万円)であつたことは当事者間に争いがなく、これによれば、王正徹こと原告大原徹也は、昭和四九年六月以降毎月一〇万円、同年一二月以降毎月二〇万円の払込みをしなければならないことになる。一方、同原告が昭和四八年三月に慶応大学を卒業したこと、昭和四八年度ないし昭和五〇年度において、被告主張のとおり、いずれも年収約二〇〇万円余の確定申告をしていることは、当事者間に争いがなく、原告大原徹也本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右確定申告の年収額が同原告の実際の収入額であることが認められる。しかるところ、同原告の右年収額から算出される平均月額収入一八万円未満を上まわる額(昭和四九年一二月以降)を毎月積み立てることは、右定期積金の設定前既にかなりの蓄財があるなど特段の事情がない限り、不可能というべきである。そして、この点に関し、同原告本人は、学生時代から株等による蓄財があつたなどと供述するが、具体性を欠くだけでなくその裏付けとなる資料もなく、直ちにこれを信用するわけにはいかず、甲第三四ないし三七号証によつても、右蓄財の事実など右特段の事情を認めるに足りず、他に右の事情を認めるに足りる証拠はない。

(2) 王公美名義の三口の定期積金が設定された(1)が、昭和四九年六月二八日(毎月の払込金額一〇万円)、昭和五〇年四月一七日(同三万円)及び同年一二月一七日(同一〇万円)であつたことは当事者間に争いがなく、これによれば、原告王公美は、昭和四九年六月以降毎月一〇万円、昭和五〇年四月以降毎月一三万円、同年一二月以降毎月二三万円の払込みをしなければならないことになる。一方、同原告が昭和四八年三月に東京薬科大学を卒業し、その後聖心女子大学に勤務(同年四月)を始めたが、間もなく退職(昭和四九年三月)し、同年一二月から三共フアーマシーに就職していたこと及びその就職中の月収が四万円余から六万円余(そのほか年二月の賞与等が一回最高六万円余)であつたことは当事者間に争いがない。しかるところ、同原告がその月収を上まわる前示金額を毎月積み立てることは、右定期積金の設定前既にかなりの蓄財があるなど、特段の事情のない限り、不可能というべきである。そして、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

(3) 王寿美こと大橋寿美名義の二口定期積金が設定されたのが、昭和五〇年五月一五日(毎月の払込金額一〇万円)及び同年一二月一七日(同一〇万円)であつたことは当事者間に争いがなく、これによれば、原告大橋寿美は、昭和五〇年五月以降毎月一〇万円、同年一二月以降毎月二〇万円の払込みをしなければならないことになる。一方、同原告が昭和四〇年三月に昭和薬科大学を卒業し、昭和四三年一月に結婚したこと及び同原告が結婚後台湾、新潟市、松本市を転々としていることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右定期積金が設定された当時松本市に在住していたこと、協和信用は東京都内に存することが認められる。しかるところ、主婦として自分自身に収入のない同原告が前示金額を毎月積み立てることは、過去に蓄財があつたり、夫から贈与を受けるなどといつた特段の事情のない限り、不可能というべきであるし、松本市在住の主婦が東京都内の協和信用に積み立てを始めることは、格別の事情のない限り、考え難いところである。そして、原告王優及び同大原徹也の各本人尋問の結果によつても、右の特段の事情ないし格別の事情を確認するに充分とはいえず、他に右各事情を認めるに足りる証拠はない。

(4) 右〈41〉(王正徹名義)、〈42〉(王公美名義)及び〈46〉(王公美名義)の各定期積金について、これらを設定したのが被相続人であることは、当事者間に争いがない。また、その余の右〈43〉(王正徹名義)、〈47〉(大橋寿美名義)、〈50〉(王寿美名義)及び〈51〉(王公美名義)の各定期積金については、右(1)ないし(3)によれば、その各名義人が毎月の払込みをすることは不可能であると認められ、したがつて、右各名義人が右各定期積金を設定しなかつたものと推認されるところ、この推認事実に前掲乙第七号証及び証人林広志の証言を合せ考えると、これらを設定したのもまた被相続人であるものと認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない(なお、右〈47〉については、被相続人が設定したことにつき当事者間の争いのない右〈48〉及び〈49〉と同日に設定されていることも、右認定を支えるものである。)。

(5) 以上認定の各事実によれば、(三)冒頭掲記の各定期積金は、いずれも被相続人が管理、支配していたものであると推認することができるところ、この推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

(6) そうすると、(三)冒頭掲記の各定期積金は、相続人に帰属していたものと解することができる。

5  前記1ないし3の各定期預金の本件相続開始時における既経過利子の額が被告主張の額(別表二の〈9〉ないし〈19〉、〈21〉ないし〈23〉、〈25〉ないし〈37〉の加算すべき既経過利子欄の額)のとおりであることは弁論の全趣旨によりこれを認める。そして、既経過利子がその定期預金の帰属と運命を共にすることは当然のことである。

以上によれば、本件預金(別表二の〈4〉の(15)及び(16)の一部)はすべて被相続人の相続財産である。

三  本件貸付金について

1  道南園芸に対する貸付金

(一)  貸付金残高

被相続人の道南園芸に対する貸付金の移動状況及び貸付金の残高の推移については、昭和四九年一一月三〇日の三〇〇〇万円の返済の点を除いては、当事者間に争いがない。

原告らは、右三〇〇〇万円の返済の点について、道南園芸が同年二月二八日中央合作から三〇〇〇万円を借り入れ、同日、これを被相続人に仮払し、同年一一月三〇日返済金として振り替えたと主張しているので、右の点について判断する、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二八号証によれば、道南園芸が同年二月二八日に中央合作から三〇〇〇万円を借り入れたことが認められるが、原告大原徹也本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右三〇〇〇万円は三菱銀行京橋支店の原告王優名義の普通預金口座に送金されていることが認められる。そして、右三〇〇〇万円が原告王優名義の普通預金口座に入金されている以上、それは、道南園芸から原告王優に対する支払であつて、特段の事情がない限り同原告に対する支払でないとは考え難いところ、これが原告王優に対する支払ではなく、被相続人に対する支払であるということを首肯するに足りる特段の事情につき主張も立証もない。更に、弁論の全趣旨によれば、道南園芸がその借入金を記載している帳簿には右三〇〇〇万円を被相続人に仮払したこと又は返済金として振り替えたことの記載がなく、道南園芸の昭和四九年一一月三〇日現在における被相続人からの借入金が六〇五六万九八四五円である旨記載されていることが認められる。なお、甲第二九号証の、道南園芸の同日現在における被相続人から借入金が三〇五六万九八四五円である旨の記載は、右各認定事実に照らすと、道南園芸の被相続人からの借入金残高が正確に記載されているものと認めるわけにはいかず、これをもつて右原告ら主張の道南園芸から被相続人に対する三〇〇〇万円の返済があつたことを裏付けるには足りない。したがつて、結局、道南園芸が中央合作から借り入れた三〇〇〇万円を被相続人に仮払ないし返済した事実はなかつたもの推認するのが相当と解されるところ、この推認を覆すに足りる事情を認めるに足る証拠はない。

したがつて、被相続人の道南園芸に対する貸付金は一億一五六七万七九二二円存在したものと認められる。

(二)  基本通達二〇五号該当性

基本通達二〇五号では、「貸付金債務等の評価を行う場合において、その債務金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価格に算入しない。」としており、右に「次に掲げる金額」には、債務者が手形交換所において取引停止処分を受けたとき、会社更生手続、和議の開始の決定があつたとき、破産の宣告があつたとき等の貸付金債務等の金額及び和議の成立、整理計画の決定、更生計画の決定等により切り捨てられる金額等を掲げている。すなわち、同号が「次に掲げる金額に該当するとき」とは、右に示したように、いずれも、債務者の営業状況、資産状況等が客観的に破たんしていることが明白であつて、債務の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといいうるときをさしているものということができる。したがつて、同号の「その他回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」というのは、右に述べた「次に掲げる金額に該当するとき」に準じるものであつて、それと同視できる程度に債務者の営業状況、資産状況等が客観的に破たんしていることが明白であつて、債務の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといいうるときであることが必要であるというべきである。

そこで、道南園芸についてこれをみるに、成立に争いのない甲第一六ないし第二二号証、原告の存在及び成立に争いのない乙第一〇八号証の一、二によれば、道南園芸は、本件相続開始当時の昭和五〇年一一月三〇日期及び昭和五一年一一月三〇日期の各決算においていずれも当期純利益(一九五万円余及び一三六六万円余)を計上していたこと、その後累積赤字が増加している(昭和五八年一一月三〇日期で五五八八万円余)けれども、なお、昭和五八年一一月三〇日現在も営業していることが認むられる。右事実によれば、本件相続開始日当時において、道南園芸が基本通達二〇五号に該当していなかつたものと認められる。

2  協和企業に対する貸付金

(一)  貸付金の帰属

前掲乙第一一号証によれば、協和企業の伝票は、被相続人が起こしていたこと、同社の昭和四九年二月二八日期の法人税確定申告書添付の勘定科目の明細書に被相続人からの借入金一五三六万六四八九円を計上し、昭和五〇年二月二八日期の同申告書に被相続人からの借入金五五三万四二〇四円を計上していたところ、昭和五一年二月二九日期の同申告書には、被相続人からの借入金の計上がなく、原告王優からの借入金八四五万六一二五円が計上されていたこと、右の昭和五一年二月二九日期の借入金の変動の理由は、同社の経理処理をしていた和田実税理士が、被相続人の死亡後、原告大原徹也からの、被相続人からの借入金八四五万六一二五円については、これを原告王優からの借入金に変更するようにとの指示によつてされたものであること、被相続人は死亡前まで右貸付金が原告王優のものであるなどと言つたことがなかつたことが認められ、右各事実によれば、右貸付金は、被相続人の同社に対する貸付金であつて、原告王優の貸付金ではないと推認することができる。そして、右推認事実に反する原告王優、同大原徹也各本人の各供述は容易には採用できず、他に右推認を覆すに足りる事実を証する証拠はない。

したがつて、被相続人の協和企業に対する貸付金が八四五万六一二五円あつたものと認められる。

(二)  基本通達二〇五号該当性

前掲甲第二三号証によれば、協和企業は、昭和五〇年二月二八日期の決算において、一五〇〇万円余の繰越欠損金を計上していることが認められるが、他方、原本の存在及び成立に争いのない乙第六〇号証によれば、同社は、昭和五五年二月二八日期の決算において、当期純利益を計上し、繰越欠損金勘定も消滅していることが認められ、右事実によれば、本件相続開始当時において、協和企業が基本通達二〇五号に該当していなかつたものと認められる。

3  十合企業に関する貸付金

(一)  貸付金の帰属

前掲乙第九、第一〇号証によれば、十合企業は、昭和四九年三月三一日期及び昭和五〇年三月三一日期の法人税確定申告書添付の勘定科目の明細書に、いずれも被相続人からの借入金五八二七万九〇〇〇円を計上しており原告王優からの借入金の計上はないことが認められる。

原告らは、昭和五〇年三月三一日期の決算において、十合企業に対する貸付金が被相続人のものか原告王優のものか問題となり、その後別表七記載のとおり、同社に対する貸付金が推移したと主張する。しかし、原告王優及び同大原徹也のこれに副うがごとき供述は、不明確かつあいまいであり、また、原告王優が十合企業に真実貸付をしていたことを裏付ける資料もないので、採用し難く、他に原告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、前示の昭和五〇年三月三一日現在の被相続人の同社に対する貸付金五八二七万九〇〇〇円が本件相続開始当時においてもそのまま存続していたものであると考えられる。

したがつて、被相続人の十合企業に対する貸付金は五八二七万九〇〇〇円存在したものと認められる。

(二)  基本通達二〇五号該当性

前掲甲第二四号証によれば、十合企業は、昭和五一年三月三一日期決算において、損失を計上し、三二〇〇万円余の繰越欠損金を計上していることが認められるが、他方、同号証、前掲乙第五三、第六三ないし第六六号証成立に争いのない乙第五二、第五四号証によれば、本件相続開始当時、同社はたな卸資産として土地を多く所有していたことが認められること、右乙第五二ないし第五四号証及び弁論の全趣旨により原本が存在し、真正に成立したと認められる乙第五五号証(ただし、添付書類のうち四、九ないし一四については、原本の存在及び成立に争いがない。)によれば、同社は、昭和五六年一〇月に至つても営業を継続しているのみならず、協和信用から約四〇〇〇万円の融資を受ける程度の資金的信用があつたと認められることを合せ考えると、本件相続開始当時において、同社が基本通達二〇五号に該当していなかつたものと認められる。

4  以上のとおり、本件貸付金(別表二の〈5〉の(18)ないし(20))はすべて被相続人の相続財産である

四1原告各自が取得した財産の価格等について

1  相続財産

(一)  前記一で認定の被相続人の相続財産であることが争いのないもの

原告らが、別表五の〈1〉ないし〈19〉、〈25〉、〈30〉ないし〈36〉の被告主張額のとおりの相続財産を取得したこと並びに原告王優が、同表の〈20〉のうち、別表三の〈8〉、〈20〉及び〈24〉に係る定期預金(元本一一二万八九八〇円)、別表五の〈21〉のうち、別表三の〈39〉、〈40〉、〈44〉及び〈45〉に係る定期積金(一二〇〇万円)、別表五の〈22〉のうち、別表三の〈8〉、〈20〉及び〈24〉の定期預金に係る既経過利息(四八三三円)を取得したことは、当事者間に争いがない。

(二)  その他の相続財産

前記二、三で判示したとおり、本件預金及び本件貸付金は、すべて被相続人の相続財産と認められ、これらの相続財産について相続人間で遺産分割の協議が成立したことについて主張立証はない。そして、原告らの相続については、被相続人の本国である中華民国(被相続人の本国が中華民国であることは当事者間に争いがない。)の法律の規定によるべきところ、中華民国民法一一三八条、一一四四条によれば、原告らは被相続人の相続人であつて、その相続分は均等(各五分の一)であると解されるので、原告らは、右の未分割相続財産について、各五分の一ずつこれらを取得したことになる。

(三)  そうすると、原告らは、別表五の〈38〉及び〈39〉(その合計は〈37〉)の被告主張額のとおり相続財産を取得したものである。

2  相続債務及び葬式費用

原告らが取得した相続債務及び葬式用の額が、別表六の〈10〉及び〈11〉の被告主張額のとおりであることは、当事者間に争いがない。

五  相続税額と本件更正及び本件再更正並びに各過少申告加算税賦課決定の適法性

以上によれば、被相続人の相続財産から相続債務及び葬式費用を除いた課税価格は、別表六の〈12〉のとおり二億五七九二万八五九八円となり、この課税価格(同表〈13〉のとおり端数処理をした後のもの)に基づいて原告らの相続税額を計算すると、同表〈23〉の被告主張額のとおり原告王優三〇六万二二〇〇円であり、その余の原告ら各一一〇万六二〇〇円となる。

したがつて、これらの相続税額の範囲内である本件更正及び本件再更正は、適法である。

また、原告らが、本件相続に係る相続税につき納付すべき税額として申告した金額が別表六の〈23〉の原告各人の申告額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、これと前記相続税額との差額の一〇〇分の五に当たる額である過少申告加算税の額は、同表の〈24〉の被告主張額(一〇〇円未満切捨て)のとおり原告王優一五万二〇〇円、その余の原告五五万四三〇〇円となる。

したがつて、これらの額の範囲内である各過少申告加算税賦課決定は適法である。

六  結論

よつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 太田幸夫 裁判官 塚本伊平)

別表1 課税の経緯

〈省略〉

注1.〈4〉の合計欄の括弧書は、異議決定をするに当たり、その基礎となった課税価格等の合計額である。

2.〈5〉の合計欄の括弧書は、再更正・賦課決定をするに当たり、その基礎となった課税価格等の合計額である。

3.〈7〉の合計欄の括弧書は、裁決をするに当たり、その基礎となった課税価格等の合計額である。

別表二 相続財産及び相続債務一覧表

〈省略〉

別表二(続)

〈省略〉

(* ◎は、原告らにおいてすべて申告済で、かつ、異議・審査において争いのなかったものである。)

別表三 預金一覧表

〈省略〉

(以下次葉)

別表三(続)

〈省略〉

別表四 道南園芸株式会社に対する貸付金一覧表

〈省略〉

(以下次葉)

〈省略〉

(以下次葉)

〈省略〉

別表五 各相続人の取得した相続財産の一覧表

〈省略〉

(以下次葉)

別表五 (続)

〈省略〉

別表六 各相続人の納付すべき税額等の計算一覧表

〈省略〉

注 〈19〉欄のかっこ書の金額は適用税率を乗じたのちに控除する金額である。

別表七 王優及び被相続人の十合企業に対する貸付状況

〈省略〉

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